筆者
⾏政システム総研 顧問
榎並 利博(えなみ としひろ)
毎年、敬老の日にちなんで高齢者(65歳以上)の人口が発表されるが、今年は高齢者人口が1950年以降初めて減少した一方、総人口に占める割合が29.1%と過去最高だったという。つまり、日本人の10人に3人が高齢者だ。高齢社会なのだから当然だと言われそうだが、他人事として傍観できないのは筆者も今年からその仲間に加わったせいだろう。
一般に高齢者はデジタル弱者とみなされる。しかし、筆者はPCもスマホも使えるし、今どきの60代・70代では普通に使っているだろう。しかし、PCやスマホに代わる新たなデバイスが登場した時に対応できるかというと、それはちょっと心もとない。
高齢になるととにかく「変える」ことが煩わしく、「変えたくない」のだ。WindowsやOfficeの新機能など不要、とにかく「変えるな」と言いたくなる。使い勝手が変わるだけでなく、余計な機能追加でバグを発生させ、セキュリティホールを増やし、Windows UpdateでPCが動かなくなるからだ。
「昔は良かった」などと口にすると年寄り扱いされるのは重々承知だ。しかしながら、インターネット登場の初期には、セキュリティなど誰も気にせず、世界中の人たちと自由に軽々と情報交換ができた。当時、インターネットにアクセスできたのは善人ばかりだったからだ。
ところが、インターネットの裾野が広がると悪人がはびこり、夜の繁華街の裏通りのようになってしまった。既知の人物からのメール以外は、まず悪人だと疑ってかからないと危ない。詐欺メールや若い女の子を騙ったりする輩には本当にうんざりする。そして、セキュリティ、セキュリティでやたらとPCやネットが重くなる。
「令和4年通信利用動向調査」によれば、60代と70代でインターネット利用に不安を感じる割合が最も高く、80%を超えている。それを反映してか、若い世代のインターネット利用率が95%以上なのに対し、60代で85%、70代で65%、80代以上で33%と徐々に低下していく。
また、マイナンバーカード交付率のダッシュボードでは不思議な現象が見られる。高齢男性(60歳以上)では交付率が60%超と他の世代に比べて軒並み高く、しかも高齢になるほど交付率が上がり90歳以上では73%にもなる。その一方で、女性の場合は高齢になるほど交付率が下がり、90歳以上では30%を切っている。
警察庁によれば、振り込め詐欺など特殊詐欺の認知件数が年間17,570件にのぼり、そのうち高齢者の被害が86.6%、そのうち3/4を女性が占めるという。電話でさえこの状況であれば、高齢女性にとってインターネットは犯罪者の溜まり場そのものだろう。マイナンバーカードの交付率が高齢女性ほど低いのも頷ける。
政府はマイナンバーカードの保険証化を急いでいるが、実印相当の機能を持つカードを携帯するとなると高齢女性は嫌がるだろう。インターネットを使わない人たちにとって、オンラインの当人認証機能など百害あって一利無しなのだ。リアルな場での身元確認のためのマイナンバーカードで十分であり、保険証機能も公的個人認証ではなくマイナンバーだけで十分だ。
デジタルデバイド対策は以前から叫ばれているが、インターネットを使いたくない人に無理やり使わせることではない。時間が余っている高齢者にとって、インターネットによる時間の削減などに関心は無い。「身元確認のためのマイナンバーカードだけ携帯していれば、役所でも病院でも何不自由なく用が足せます」という雰囲気が醸成されている社会を実現したいものだ。