筆者
⾏政システム総研 顧問
榎並 利博(えなみ としひろ)
先日、千葉県から運転免許証更新の通知が筆者のところに届いた。そこには二次元バーコードが印刷され、免許更新にはオンライン予約が必要と記載されている。さっそくスマートフォンでアクセスし、必要事項を入力して希望日時を指定すると、二次元バーコードが表示された。
受付ではこの二次元バーコードのスクリーンショットが必要になるらしい。当日、予約時間に行くとスムーズに入場でき、申請自動受付機でこの二次元バーコードを読み取らせ、必要事項を入力すると申請書が自動で作成・印刷された。
あとはこの申請書のいくつかの項目にチェックを入れ、署名するだけで申請書の作成は終わりだ。手数料の納付もキャッシュレスでOK、わざわざ収入証紙を購入して貼付する手間も無い。従来の窓口手続きを考えると、窓口DXでかなり時間が短縮され、便利になったことは確かだ。
一方、スマートフォンやインターネット環境が無い人はどうなるのだろうか。ホームページを見ると、電話予約も対応しておらず、「予約のない方はご案内が大幅に遅れたり当日の手続きが終わらない場合もあります」と書いてある。思えば、入り口の脇では、予約のない人たちの行列ができていた。たぶん、予約した人の処理が空いた隙間に押し込むのだろう。
調べてみると、各都道府県では今年あたりから免許センターの窓口DXを推進しているようだ。新潟県の免許センターでは、日曜日限定という条件でオンライン予約が必須(電話予約の対応は無し)となっており、オンライン予約できない方はスマートフォンを持っている家族に予約してもらってくださいと書いてある。
また、埼玉県の免許センターでは、キャッシュレス決済(クレジットカード、電子マネーおよびコード決済)のみの対応、現金不可という強気な姿勢でトラブルも起きたようだ。決済手段があっても、金額不足の際のチャージができない、一部のクレジットカードは未対応など、ネットでも疑問の声があがった。
そのほかJR九州でも窓口DXを開始したようで、券売機の無い駅での乗車証明書として駅掲示の二次元バーコードを読み取り、降車駅で提示するという運用になった。スマートフォンを持っていない人はどうしていいのかわからず、このような人たちを置き去りにするのではと懸念されている。
デジタル社会では、誰もがスマートフォンやインターネット端末を保有し、常にネットにつながっていることが当たり前だ。それを前提とした仕組みづくり(DX)が進めば、多くの人たちにとって便利になるだろう。その一方、それから取り残された人たちのことも考えていかなくてはならない。
特に、公共機関では「誰一人取り残さない」という姿勢で運用を設計することが大切だ。 コロナ禍でデジタル化が急速に普及したとはいえ、スマートフォンを持っていない、操作がわからない人もいる。また、同居家族がいない人も多いだろう。さらに、通信料金の負担ができず、スマートフォンを持てない人もいる。
アナログ対応を残すだけでなく、デジタル社会の必須アイテムであるスマートフォンを貸し出す、スマートフォンの操作を教えたり、オンライン予約を手伝う、キャッシュレス決済の仕方を教えるなど「誰一人取り残さない」仕組みも社会に求められてくる。DXの進展とともに、自治体や地域社会が果たす役割はますます大きくなっていくだろう。
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このような原稿を書きながら、ふとある飲食チェーン店のことを思い浮かべた。入店から注文、配膳、会計まですべて機械で自動化、最初から最後まで一人の店員とも言葉を交わさず、目も合わせることはなかった。効率的といえば効率的なのだろうが、私は燃料を補給に来たロボットなのか? なんとなく、殺伐さを感じるのは筆者だけだろうか。