筆者
⾏政システム総研 顧問
榎並 利博(えなみ としひろ)
先日、10分間のNHK番組「視点・論点」に出演した。タイトルは「これからのマイナンバーカード」、ここ数カ月話題となっているマイナンバーの紐付け問題について、視聴者にわかりやすく解説することが目的だ。放送日は2023年7月12日で、収録したのは前日の7月11日だ。
収録で読み上げる原稿はこちらで事前に用意して送る。文字数は約2900字と決まっている。聞きやすい速度で読み上げると、9分20秒から30秒に収まる分量だそうだ。収録で一番難しいのは、原稿を最初から最後まで読んで、ちょうど9分20秒から30秒に収めるという部分だ。もちろん、事前に通しで読む練習をして時間を計測し、読み上げる速度の感覚を掴んでおくことは言うまでもない。
10年ほど前の同番組では、事前に送った原稿が印刷されており、手元の原稿に視線を落としながら、読み上げるという収録方法だった。今回は目の前にプロンプタが用意されており、正面に文字が表示される。これなら視線を落とさず、正面を向いて読み上げることができる。さすがに技術は進歩している。
プロンプタのページめくりは手元のスイッチで行う。カラオケのように時間経過に合わせてプロンプタの文字の色が変わるのかと思っていたが、そうはならないらしい。それでは速度調整はどうするのかと聞いたら、撮影スタッフがこれですとカンペを取り出した。
それには「少し早めに」とか、「もう少しゆっくり」とか書いてある。あまりにアナログなので笑ってしまった。スタッフの方々と和やかに準備は進んでいざ収録、あらかじめしゃべる速度の感覚は掴んでいたので、収録は一発でOKとなった。
それにしてもこの日は猛暑日。渋谷駅からNHKの放送センターまで大した距離ではないが、酷暑の中を歩くのは辛かった。帰りのタクシーのなかで、わざわざ渋谷まで来る必要があったのかと疑問が沸いてきた。
原稿は事前に送ってあるし、自身のデジタル画像も送っておけば、あとは生成AIを使って口パクで映像が出来上がったのではないだろうか。しゃべる速度も自動調整できるし、声色もアナウンサーなみの美声に代えてもらえる。
どこかの国のテレビ局では、生成AIがお天気キャスターを務めているそうだ。言われなければ、本物の人間と見分けがつかない。そうなると、メイクさんも不要となるし、カメラさんも撮影スタッフも要らない、ということになるかもしれない。
ゴールドマン・サックスのレポートによれば、先進国では約1/4の仕事がAIによって自動化されるという。4人に1人が失業という社会は、想像するだけでゾッとする。今夏の寝苦しい夜は、牡丹灯籠よりも生成AIの話の方が効果がありそうだ。と、誰かが私の肩を叩いた気がした。「これくらいの文章、私は得意ですよ」